EX#04
- The Talking Sparrows of the Secret Garden. -
とある喫茶店の奥まった一角。そこに四人の少女たちが席を連ねている。
少女たちはちょうど三週間後に迫った学園祭における自分たちのクラスの出し物について談義をしているところだった。
「私は制服の上に揃いのエプロンとかでいいと思うんだけど……」
「えー。それじゃつまんないよう」
無難なナオエの意見にトモミは口を尖らせて異議を唱える。
「折角のお祭りなんだからさー。もっと派手なことをやろうよ。こう、パーッとさー」
両手をパーッとの形に広げながら漠然としたことを云う。
「……パーッとはいいですけど、もっとちゃんとした具体的な案はないの?」
「なんだよー。だから今考えてるじゃないかー。ナオちんのいけずー」
「発言をするならちゃんと考えた後にしてください。あとナオちんと呼ぶのもやめてください」
論議は主にクラスの出し物である喫茶店の制服について行われていたのだが、始終この調子で意見はなかなかまとまりそうになかった。
そこでそれまで無言でノートパソコンを操作していたキツノが、ポツリと、
「……とりあえず市場の統計データを参考に見てみるといいんじゃないかしら」
そう云ってノートパソコンの画面を三人に向ける。
三人は肩を寄せ合ってひとつの画面を眺める。が、そこに映し出されていたホームページの画像を見て、三人は目を丸くした後(厳密にはハルと残りのふたりの反応は微妙に違うのだが)一様に呟いた。
「……メイドさん?」
そう。そこに映っていたのは黒い質素なエプロンドレス――所謂メイド服の女性が喫茶店で給仕をしている姿だった。
「他にはこんなものも」
云いながらキツノはノートパソコンを操作する。
今度映し出されたのはブルーを基調としたウィングカラー+ピンタックのブラウスに、フレア気味の膝丈巻きスカート。ハイウェストの薄いブルーのチェック柄エプロンをつけたウエイトレスの姿。
「あるいはまた」
また画面が変わり、今度はゆったりめのブラウスと大小のフリルが沢山ついた、えんじ色に近い落ち着いた赤のスカートを穿いたウエイトレスの姿。スカートは高い位置にベルトで留められ、黒のストッキングを穿いている。
「データによるとこれらの衣装を使った喫茶店の顧客満足度が高いようね」
未だ目を丸くしている三人を余所に、キツノはあくまで淡々と解説する。
それに対して最初に硬直から解け、頭から湯気が立つほどに反応したのはナオエだった。

「な、なななな。なんですかこの衣装は!」
テーブルをダンと叩き、お嬢様らしからぬ仕草で怒りを露わにする。
ちなみに残りのふたりは「ふうん」とか「へー。結構かわいいじゃない」などといった反応である。
「スカートの丈も短すぎるし……!」
確かに例示された三つの衣装はどれもスカートの丈が短く、ともすれば中の下着が見えそうなほどだった。
「それにどうしてこうムネを強調したデザインばっかりなんですか!?」
「いいじゃん。ナオエ、ムネおっきいんだしー。見せとけ見せとけ」
カラカラと笑いながら揶揄するトモミ。
「見せません! だ、大体それとこれとは関係ないじゃないですか!」
頬を赤く染めながら、自らの胸元をかき抱いて身をすくめるナオエ。それにより押しつぶされた胸の膨らみが、かき抱いた腕の隙間からこぼれ落ちる。
それを見たトモミは思わず眉根を寄せる。
「……むむむ。これ見よがしにラージサイズを強調されるとやっぱりジェラシー。…………その肉をワケロ」
「トモミは貧しいからね」
キツノがニコリともせずに呟く。
「うわ。その言い方傷つく!」
トモミは「ひ~ん」と大げさにハルに泣きつくと、ハルは苦笑しながら「よしよし」とトモミをあやす。
「――とにかく!」
バン、とまたテーブルを叩き、ナオエは脱線しがちな論題を元に戻す。
「伝統と格式あるアズマリアの学園祭でこのような軽薄極まりない衣装など! たとえ他の誰が許しても、クラス委員たるこの私が断固許しま――」
「あら――? でも確か春日さんはこういう衣装にとてもご造詣が深いのではなかったでしたっけ――?」
くすくす、と可笑しそうに小さく笑いながらキツノがナオエの科白を遮る。
「え――?」
思いもよらぬ科白に思わず振り上げた手を下ろしてしまうナオエ。
「ほら、この写真――」
そしてキツノはノートパソコンを操作して一枚のJPEG画像をナオエの前に表示する。
「――なっ!?」
ディスプレイ上に表示されたのはナオエにとって悪夢のような〝あの写真〟だった(既刊『B.C.C.2』参照)。
「ななな……! なんでキツノさんがこの写真(しかも元データを)持っているんですか!?」
「さて。何故でしょうか」
猛然と食ってかかるナオエの追求をキツノは軽くはぐらかす。
「……うっ」
これ以上の追求は無為と悟ったのか、ナオエは屹然と顔を上げると別の角度から攻撃を開始する。
「でも! たとえば予算の問題があるわ! 貸衣装屋で借りるにしても結構なお金がかかるし、もし自分たちで一から作るにしたってすでにもうそんな時間は――」
「――あら。手芸部員としての見地から云わせていただきますと、デザイン画と型紙さえあがってしまえばなんとか可能だと思います。うちのクラスにはあと何人か手芸部員がいることですし、彼女たちを中心に衣装専門のチームを作ってしまえば、全員分の衣装の縫合も充分可能でしょう」
さすがに手芸部のホープと云われるキツノの言葉には重みがある。彼女はさらに続けて、
「あと、生地やなにかも手芸部のコネクションを使えば安く仕入れて来れるわ。……予算の点もこれでクリア。問題はやっぱり衣装のデザインと型紙の作成なのだけど――」
口元に手を当ててしばし考え込むキツノにハルが明るい声を上げる。
「あ。ウチのお姉ちゃんが服飾系の専門学校に行ってるんだけど、ひょっとしたらデザインとかお願いできるかもー」
「――ハルちゃん!?」
思いもよらぬハルの追い打ちに顔色をなくすナオエ。
「あら、それはいいわね」
キツノはハルに向かってにっこりと微笑む。
「ううー……」
しかしなおも納得のいかない様子のナオエ。キツノはそっとそんなナオエの耳元に口を寄せる。
「それに考えてもみて頂戴。この企画ならああいったお洋服を着たハルちゃんをこの目で見られるということなのよ。……これは決してあなたにも悪いお話じゃないと思うのだけど――?」
「――!」
この甘いささやきを聞いて、ナオエの脳裏に一瞬にして先ほどのメイド服を着たハル、ブルーチェックの制服を着たハル、えんじ色の南国調の制服を着たハルの姿が想い描かれる。
(ハルちゃんのウエイトレス姿――!)
ナオエの頭のなかで彼女は今、ウエイトレス姿のハルに幸せそうな顔で給仕されていた。
§ § §
「――あら。そろそろいい時間ね」
キツノがやおら腕にはめた時計を見てそう呟く。
「上映開始って十四時五分からだったっけ?」
「ええ。そろそろ出ないと間に合わないわ。打ち合わせはここまでね」
「うん。早く行こー。『ハ○ルの動く城』たのしみー!」
そうして三人はこれから観る予定の映画の話題に花を咲かせながら店を出る。
その直前、
「――春日さん。そろそろこちら側に帰って来てください。でないと先に行ってしまいますよ」
去り際にキツノがそっとかけた声でようやくナオエは我を取り戻した。
「――あれ? え? え?」
しかし妄想から醒めたばかりのナオエはすでに席を立った他の三人についていけない。
慌てて脇に置いてあったバッグをひっつかみ、三人の後を追う。
「ま、待ってーー! ハルちゃーーん」
§ § §
そうして四人の少女が店を立ち去ったほんの少し後のこと。
四人がいた席からは死角に入っていたため誰ひとりとして気がつかなかったが、その反対側の席にはひとりの妙齢の女性の姿があった。
腰まで届こうかという黒く長い髪を垂らし、どこか妖艶な雰囲気を漂わせた女性だ。
その涼しげな口元がやおら笑みの形につり上げられる。
「――くす。面白いことになりそうね――」
... It continues to "Act.03 THE MAJESTIC STAND - A-part -"!