EX#06
- ASHLEY/MARYKATE OLSEN -

 時刻は夜の十一時をまわり、すでに深夜といっても差し障りのない頃合い。
 私立アズマリア学園高等部一年生である本庄吉乃は、自宅の自室にて一週間後に迫った学園祭に向けての衣装作りに勤しんでいた。
 学園では手芸部に在籍し、そのなかでもホープと呼ばれるキツノの手つきは素早く、そして正確である。最小の動作で次々と布地を縫い合わせていく。
 その傍らにはいつものようにベッドに寝転がって、お菓子を片手にスポーツ雑誌を眺める幼なじみの少女の姿。
「トモミ」
 作業する手はそのままに、キツノは傍らの少女に声をかける。
「ん? 何キツノ」
「お菓子。食べるのはいいですけど、ベッドの上に零さないようにしてくださいね」
「わーかってるってー。大丈夫大丈夫」
 パタパタと手を振って安請け合いするトモミに、キツノは訝しげにその形のいい眉を寄せる。
「本当に分かってますか…?
 …あとさっきから下着が見えてますよ」
「ん? あ、ホントだ。
 まあ、いーじゃん。どうせキツノしか見てないんだし。なんならもっと見る?」
 ホレホレとスカートをひらひらとめくってパンツを見せつけるトモミに、キツノは大きくため息一つ。
「はあ…。それにしても色気のない下着ですね」
「どうせ見せる相手なんていないしねー。…鬱だ」
「自分の科白にいちいち落ち込まないでください」
「どうせ男なんてムネしか見てないんだー!」
「ううう…ちくしょう」とむせび泣くトモミ。自棄になったかのようにもむもむと手元のバームクーヘンを貪る。
「大分やさぐれてますね…。
 それにそんなこともないと思いますが。殿方だってちゃんと女性の胸囲以外の部分も見ているかと。例えばカオとか」
「フォローになってないよそれ!
 そりゃ、キツノはおっぱいおっきいからいいけどさー」
「…別に標準だと思いますけど?」
 そう云いながら自らの胸を左右から持ち上げてみせる。
「…カミサマは不公平だ。…………その肉をワケロ」
 ぐるるるる…と野生動物のような唸り声をあげる。
 他人より起伏に乏しい胸が彼女の最大のコンプレックスだった。
 トモミはやおら天井を見上げて大仰に息を吐くと、ちぇっと口を尖らせて、
「やっぱこの悩みを分かち合えるのは(同じ貧乳の)ハルちゃんだけかー」
「…でもトモミと違ってハルさんにはちゃんとお相手がいらっしゃるようですが?」
「ガーン!? そうだったあの裏切り者~!!」
 ばふばふとクッションに当たり散らす。
 キツノはハア…とため息をつき、作業の手を止めると、
「別に胸なんてなくてもいいじゃないですか。あったところで肩がこるだけですし。第一トモミは走る時に邪魔になるでしょう?」
「そりゃそうなんだけどさー。それでもやっぱ憧れるっていうか…」
「D組の久保田さんなんて体育の時わざわざ手で押さえながら走ってる位ですよ」
「あー、あのおぱい子ちゃんね。あれどうしてなんだろ?」
「なんでも胸が揺れすぎると首と胸回りの毛細血管が切れてしまうので、手で押さえてないと痛くてとても走れないそうです」
「うわ…。でも何を食べればあんな風に育つんだろ…?」
「さあ…? ただ少なくとも一日一リットル牛乳を飲めば大きくなる、というのは迷信だと思いますけど?」
「マジデ!?」
 ガーン、とショックを受けて打ち崩れるトモミ。
 キツノはうらぶれたボクサーのように地面に膝をついた幼なじみの肩にやさしく手を置くと、
「大丈夫ですよ。たとえ胸が貧しかろうが、トモミにはもっと他にいい所が…まあ、一つ位はあると思いますから。…多分」
「多分とか一つ位とか云われてもぜんぜん嬉しくないよ…」
「貧乳だって背丈はあるんですから、見ようによってはモデル体型――と云えなくもないですし。
 いつかきっとトモミの魅力を理解してくれる物好…素敵な人が現れますよ」
「そ、そうかな…?」
「ええ、だから自信を持ってください」
 そう云ってキツノは潤んだ瞳で自分を見上げる幼なじみに向かってにっこりと微笑みかける。
「うう~。キツノありがと~。愛してるよ~」
「はいはい、私もです」
 おいおいと涙を流し、胸にすがりつくトモミの背を優しくさすりながら、投げやりに云う。

「そういえば今作ってる服ってやっぱりナオエの?」
 ところで、とようやく泣きやんだトモミが思い出したようにキツノに尋ねる。
「ええ、そうですけど…。よく分かりましたね?」
「いや、随分胸回りの布がゴージャスっていうか…余裕が感じられるっていうか…」
「ああ、成る程。確かにトモミのじゃこうはいきませんものね」
「一言多いよ!」
「…一応褒めたつもりなのですが。作る方としてはラクで助かりますし」
「…それあんまり嬉しくない…。
 あー、でもやっぱいいなー。一度でいいからこんな服を着こなしてみたいなー」
 トモミが羨望のまなざしで作りかけの衣装を見つめていると、キツノは事も無げに、
「着れますよトモミにも。何でしたら今着てみますか?」
「マジで!?」
「ええ、ちょうど仮縫いが終わった所ですし、試着してみてください」
 そう云って仮縫いが終わったばかりの衣装を差し出す。
「――と、その前にこれを――」
 と、キツノは傍らから何やら取り出した。
「…何コレ?」
「こっちはアシュレー、こっちはメアリー・ケイト」
「いや、名前を訊いてるんじゃなくて」
 トモミの至極まっとうな問いかけに、キツノは「何を当たり前のことを」とばかりに平然と云い放つ。

「必要でしょ? 胸パッド」

... It continues to "Act.03  THE MAJESTIC STAND - A-part -"!

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